すっすっはっはっ、すっすっはっはっ……

「ハイ、この辺りで5kmを超えたところでーす!」
佐藤コーチの快活な声が響いた。
もう5km!? と驚いたような声が後ろから聞こえ、腕時計を見ると、正午過ぎ――スタートから30分余り経っていた。
「結構いいペースですよ! 予定よりスムーズ!」
後になり先になり、ゼリー飲料やドリンク類を積んで伴走してくれている車から、ペットボトルを受け取って飲む。
かなり一気に飲んだはずなのだが、乾いた布が水を吸うように、一瞬のうちに体に溶け込んだ気がした。

柳さんや佐藤コーチ、ビジターのひとたちと、あれやこれやお喋りをしながら走っているおかげで、距離の長さはあまり感じていない。
こんもりと背の高い木々に囲まれた山道なので、上ったり下ったり……というよりは、上って上って、少し下って、また上って……という感じに近かった。
上り坂が続いて、さすがに皆の口数が少なくなると、佐藤コーチが元気に叫ぶ。
「息が苦しくなったと思ったら、吸うよりもしっかり大きく吐いて、深呼吸! 腕を振って、いっちにっ、いっちにっ、いっちにっ、いっちにっ!」
元気といえば、佐藤コーチのホームページの名前にある “サバーイ” という言葉は、タイ語で「みんな、元気!?」という感じのニュアンスなのだそうだ。

すっすっはっはっ、すっすっはっはっ、走り続けるうちに呼吸がリズムを整え、安定してきた。
「あと少しで10km、折り返し地点でーす!」
トイレに行きたいんですけど、というビジターの女性たちの声に、
「折り返し地点のすぐ傍に大きい病院がありますから、借りられると思いますよ」
と、伴走車のスタッフがうなずく。
「トイレがないコースっていうのもあったよね、どこだっけ」
柳さんが佐藤コーチの方を振り向いて言った。
「まあ、ない時は、その辺の茂みとかで適当に隠しながら済ませるからいいけど、ね」
周囲から笑い声が起こる。
「もう、柳さん! そういうことを堂々と言わないでください、本当にもう……」
慌てたようなコーチの大声に、柳さんの目が悪戯っ子のように笑った。