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2004年06月03日

僕が僕であるために

3月半ばに「8月の果て」を打ち切られてから、なんと!! 10キロ太りました。
怒りよりも大きい空白感(突然、ぼかっと大きな穴が開いた)を埋めるために食って食って食って、気が付くと、冷蔵庫の扉を右手で押さえて、左手でかまぼこやらチーズやらなんやらを貪り食って……書くために、眠らないために、(ジュースとか飲むのはだめなんです、ガムも気がつくと寝ちゃってることが多い。やっぱ、口に入れて、噛んで、飲み込むっていう面倒くさい作業が必要なんですよ、徹夜のときは)不二家ルックチョコ(が、チョコのなかでいちばん好き)とか、ポップコーンとか、食べっこ動物とか、不二家ルックチョコアイス(また、出たッ!!!)とか、チキンラーメンとか……とにかく、書きながら食いつづけていました、青虫、芋虫、毛虫状態で……。

で、完全に朝になるころには胃痛と吐き気との闘いで、今度は昼まで眠らないために、音楽です。
聴き慣れたお気に入りの音楽だと眠っちゃうので、<彼>のCDを借りました。
いろいろ借りたんだけど、<黒夢>は激し過ぎてワープロを打つリズムと合わないんですよ。(チャットにはピッタリ!)
で、意外にも、尾崎豊だったんです。
<彼>が小学生のときにくりかえしくりかえし聴いて、歌詞を憶えたという尾崎豊……

わたしは……なんとなく、というか、かなり意識して敬遠していました。
尾崎がクスリで捕まって、獄中に居るころでした。

芝居がはねたあとの劇場で、東さんの連れの女性が泣き出し、わたしを罵りはじめたので、スタッフのHくんに、「飲みに行こう」といって、外に出た。
午前3時過ぎ……家には帰らないつもりだった。
「どこ、行く?」
芝浦の倉庫街にあった劇場なので、近くには居酒屋も喫茶店もない。
「どうしようか……あぁ、あいつんちが近いか……」
「だれ?」
「女の子」
「彼女?」
「ぜんぜん。高校時代のともだちなんだけど、かなり変わってる……」
「こんな時間に……だいじょうぶなの?」
「電話ないんだよ」
 当時はケイタイなどなかったから、部屋に電話がついていなければ、こちらからは連絡をとることはできない。
 わたしたちは、突然、彼女の部屋を訪ねた。
 マンションの1階だった。
 チャイムを鳴らすと、1、2、3、4、5ぐらいで扉が開いた。
「あぁ、いらっしゃい」待っていたような口調だった。
「ごめん。寝てた?」Hくんは謝った。
「ううん、さっき帰ってきたばっかり。気にしないで」
 きれいなひとだった。色白で、袖を通さないで白いカーディガンを羽織り、洗い髪だった。
 わたしは部屋に入って驚いた。
 なにもない。
 モデルルームのような1ルーム(20畳ぐらいだったかな?)で、ベッドも、椅子も机も鏡台も、テレビもラジカセもプレーヤーも本棚も、冷蔵庫も炊飯器もやかんも食器もコップも……ない。
 フローリングの床に布団が敷いてあって……
 壁には、尾崎豊のポスターが1枚だけ貼ってあった。
 そして、枕もとには、尾崎のレコードが積んであった。
 訊きたいような、訊きたくないような……でも、わたしは訊いた。
「好きなんですか?」
「好き……というのとはちょっと違うと思う。尾崎が生きているうちは、生きていようと思う。尾崎がうたいたくないなら、うたわなくてもいい。ただ、生きていてほしい……」
 わたしは7時過ぎまで、彼女と話した。
 彼女は風俗で働いているということだった。
 部屋になにもないのは、尾崎がなにもない獄中に居るから……。
「でも、プレーヤーがないと聴けないんじゃない?」と訊くと、彼女はとても淡く微笑んだ。
「頭のなかでずっと流れてるから……」
「……電話がないと困らない?」
「電話をかけたいひとはいないし……もし、だれかが、わたしのことを思い出して、逢いたいと思ったら、訪ねてくれるでしょう? ふたりみたいに行く場所がなくってって場合もあるし……いないときに勝手に入れるように、いつも鍵を開けてあるの」

わたしは、それきり彼女を訪ねなかった。
いまは、そのマンションがどこにあったのか、彼女の名前、彼女を紹介してくれたHくんの名前さえ思い出せない……。
尾崎が自殺して……生きているのかどうか……わからない。

尾崎豊の10代最後のライブを聴きながら、「8月の果て」のラストシーンを書いた。
わたしは生き残って、今月の22日で36歳になる……そのことに泣けてきた。

僕が僕であるために勝ち続けなきゃならない
正しいものは何なのか それがこの胸に解るまで
僕は街にのまれて 少し心許しながら
この冷たい街の風に歌い続けてる

「僕が僕であるために」 尾崎豊

 
 

投稿者 柳美里 : 2004年06月03日 11:29

 

コメント

美里様

昨夜、コメントを寄せた……つもりだったのですが、
PreviewとPostを間違えたようで、掲載されていませんでした(笑)。
あらためて、完走おめでとうございます。
昨夜の美里さんの書き込みを拝見しながら、
かなり前のインタビュー時の、
「癒しは闘いの中にある」という言葉を思い出していました。
これからも、走り続けてください。
闘い続けてください。
身を置く場所は遠くても、あなたと同じ方向を見つめながら、私も走ります。
本当に、本当に、お疲れ様でした。

  あぁ 小魚たちの群れ きらきらと
   海の中の国境越えてゆく
    諦めという名の鎖を
     身をよじってほどいてゆく……

それにしても、ものを食べながら書けるなんて、器用ですね。
妙なことに感心してしまいました。
今度は、反動で激ヤセして倒れたりしないで下さいね!(笑)

いつも、顔を上げる力をありがとうございます。

投稿者 さくら : 2004年06月04日 01:45

ここにきて、柳さんの書いたものを一つ読みそれに感想を付けていると元気が出そうなので(^_^;)。

女性はやっぱり食べられるのですね。

ぼくは深夜の執筆はほとんど紅茶。ティーバックですが角砂糖は2個。ミルクティーにすることもあります。コーヒーは胃にもたれます。

BGMは西田佐知子の〈コーヒールンバ〉とか井上陽水の〈リバーサイドホテル〉といったものか、あとはクラッシック。演歌調は耳障りで駄目。

坂口安吾などはアル中でしたから酒呑みながら執筆、そのまま素っ裸で外に飛び出して騒ぐエピソードがありますが、ぼくは執筆中は一滴もやらないです。というよりは一人ではビールも飲まない、コーラー。

アルコールは気分で飲むので人が居ないと飲む気がしません。

投稿者 喜多圭介 : 2004年08月14日 10:47